※生徒持ち回り講義レポートです。今回は、浮間六太さんにお願いしました!(事務局)


 文春野球学校のみなさん、ごきげんよう。あなたの良き隣人、浮間六太です。本日は2月7日に行われました、第7回トーク講座のレポートをお届けします。


 今回の講師は、2回目の登壇となる大山くまおさん。大山さんといえば、言うまでもなく文春野球中日ドラゴンズ監督ですが、現在文春野球学校で、ウェブではなく敢えて紙の雑誌「野球とごはん」を作っている最中であることを受け、自らの豊富な編集者経験に基づいた「紙の雑誌ってどうやって作るの?」というテーマでお話をしてくださいました。


 加えて、「野球とごはん」を実際に販売するイベント「東京野球ブックフェア」について詳しくお話を伺うべく、同イベント主催者である林さやかさんにお越しいただきました。こんな風にイベントを主催されている方に直接お話を伺えるなんて、文春野球学校はお得感満載のいい学校です。




 今回の登壇者は、いずれも紙媒体の編集者としての経験豊富なみなさん。だからというわけではないのでしょうが、この役割分担が実に絶妙でした。


大山さん…ポイントポイントで小テーマを振って話の起点を作り、脱線した時は適度に悪ふざけに乗っかりつつ要所で話を戻す、頼れる進行役。

林さん……「東京野球ブックフェア」に関する、主催者ならではの詳しい情報はもちろん、自らの編集者としての経験から貴重なお話をしてくれる、今回のテーマにピッタリの素敵なゲスト。

竹田さん…大山さんや林さんの話に対し、文春野球学校の生徒と同じ目線で疑問質問を投げかけたり、現役編集長として編集の現状を語ったりと話を膨らませてくれる理想的なホスト。時々脱線。

村瀬校長…おおむね脱線。


 そんな文春野球のクアトロK(Kumao Ohkuma,、Sayaka Hayashi、Naohiro Takeda、Murase Kouchou)のトーク講座、いったいどのような内容になったのでしょうか。




大山 雑誌ってね、文藝春秋や週刊文春みたいな総合誌の時代がずっと長くあって。総合誌って特集からコラムからエッセイからマンガからなんでも入ってたんですけど、それがだんだん専門誌が主流になっていって。専門誌っていうのは、野球の雑誌であったりプロレスの雑誌であったり、各スポーツジャンルのものや、映画、趣味の雑誌とかありますよね。

 で、専門誌の他に『ムック』っていうものがありまして。

村瀬 「ブック」と「マガジン」の間ですね。

大山 ムックっていうのは何かっていうと、一つのテーマで最初から最後まで全部出来てるという雑誌で、ただしコードは書籍という。

 で、何故ムックってものがだんだん増えてきたかっていうと、色んなものが入っていると損してるっていう感じる人が多くて。「好きなもの全部で埋め尽くされたい」みたいな感じが最近増えてきたなと編集の現場にいて実感するんですけど。

竹田 そうなんですよ。「Number」も僕が作ってた最後のほうとかは、例えば野球特集をしても、巻頭にはラグビーやサッカーのコラムがあって、後ろにはいろんなスポーツのちっちゃいコラムがあるんだけど、「あそこいらない」って投書が結構増えてきてたんですよ。僕らはよかれと思って、一号に色んなスポーツの今が載ってるのがいいと思ってたら、野球以外興味ないから要りませんって投書が来始めた。

大山 だからまあ、雑誌ってものが求められてるものがだんだん変質してきてるんだなって思うのがここ数年のことなんですけど。


 確かに、いちいち身に覚えが。自分がこれまで定期購読してきた雑誌はプロレスや音楽の専門誌ばかり(あ、野球雑誌買ってない…)。Numberも、野球以外の記事は概ね飛ばしちゃってるなあ。


大山 林さんは雑誌の編集部にいらっしゃったんですよね?

  そうです。最初は「野球小僧」の編集部にいました。

大山 作ってた時に考えていたこと、「こういうことやりたいな」って思ってたこととかあります?

  新しい見方を提案するっていうことだったと思います。「野球小僧」っていうのは、ドラフトとかアマチュアの情報がかなり充実してました。一方で特集などでは、今まで人が考えなかったような見方が提示できるもの、っていうのはよく企画でも出てました。私が今も雑誌とかを考える時には割とそういう考え方をします。

大山 僕は、読者層みたいなものって見えてたんで、その人たちにいかに喜んでもらうか、その人たちの意表をつくか。編集長を勤めていた映画秘宝でも、アニメやアニソンなど、いろんな雑誌を作ってきたんですけど、全部ですね。向こうが予想する、求めてくるものに応えつつ、それをどうやって越えるかってことばっかり考えてましたね。あとはコストのことばっかり考えてたんですけど(笑)


 雑誌はどんどん専門化、細分化していき、編集部はどんどんマニアックになる読者の期待に応えながらさらにその期待を上回る驚きを提供する。雑誌編集って、際限ない努力を要するのですね。あと、コスト。世知辛し。


 と、いうような紙の雑誌の現状などを踏まえ、「東京野球ブックフェアに出店するとしたら」について話が移りました。


竹田 みなさんが作ったものを出展するにあたって、どういうものが売れて、どれくらいの部数刷って、どういう売り方するといいの? みたいな、ちょっとコツを知りたい。

  (当初予定の)300部は、かなりハードル高いです。ただ、商業出版の著者で参加してくれた人に言われるのは、野球ブックフェアで初売りすると、そこで来場者が買って、例えばサインとか貰って、SNSに上げる。で、野球ファンに広がるっていう、その一連の流れが出来てきてるみたいなことは言われていて。それは一般の書店で買えるものだからということはあると思うんですけど、「野球とごはん」みたいな同人誌も「そのあとネット売ります」というのであれば、多少なりともその先を見据えることはできる。まあ300はねえ、相当ですよ。


 300部は相当だそうです、黒田さん。


 ちなみに、東京ブックフェアのベストセラーの一つが、実在の審判を全員イラスト入りで事細かに特徴を書かれている「審判様々っ!!」というシリーズ。




大山 その人の好きなもの、野球に関わる何もかも切り口になるというか。前回の新年最初のトーク講座で西澤さんが「個人の異常な情熱に金を払いたい」みたいなことを言ってて、それが総合誌と専門誌の時代の変化みたいなのもあるのかなと思って。なにかをとても好きで異常な情熱であったり、異様なテンションでなにかを成し遂げてる人とか、同人誌もひょっとしたらどんどんこれから個人誌の時代になっていくのかなって。

  審判本とか、まさに個人の異常な愛情が集まったもので、それは今まで審判を見てこなかった人も買ってるんです。ほとんどみんなそうだと思うんですけど、「分かる分かる」って思って買ってる人ってほとんどいないと思うんですよ。

竹田 聞いててだんだん分かって来たんだけど、今回はチームで作るけども来年はみんな一人一冊作るとか(笑)

  笑い事じゃなくて本当にそういう時代になってますよ(笑)


 総合誌から専門誌、そして個人誌へ。そんな雑誌のトレンドの推移を伺ったところで、大山さんから宿題が。


大山 で、野球とごはんに何を書こうかっていうところと、その先ですね。もう一個先の、自分でどんな野球雑誌を作ろうかっていうことまで考えてもらえると。


 ということで、宿題のテーマは『私の野球雑誌』。こちらはすでに森田さんの初事務局便り「大山さん講座の課題について」でリリース済ですので、各自ご参照を。というか、こちらのリポート掲載時にはすでに締め切りを過ぎております。しかし、おもしろい内容の宿題ですので、今後も個人であれやこれや考えて楽しんでみてもいいかもしれせんね。案外、こういうところから来年の「一人一冊文春野球学校雑誌」のアイディアが生れるかもしれません。




 今回書いた以外にも「東京野球ブックフェア」の生い立ちや理念についての林さんのお話を伺いました。こちらの内容は先日林さん自ら書き下ろしていただいたコラムと重複したため割愛しました。コラム未見の方は是非ともご一読を。


 ちなみに、林さんから「東京野球ブックフェアで本をバンバン売り捌くテクニック」を教えていただきました。


・ほとんどのお客さんは、売り子さんと話したがってる。どんどん話しかけて「じゃあ買おうか」という空気に持ち込むべし

・コミュニケーションが苦手な客には、雑誌の内容を書いたポップなどを用意すべし

・雑誌の価格を890(野球)円など、野球と縁のある数字に設定し、話のきっかけとすべし

・売り子の「わざわざ遠くから東京まで出て来ました」アピールもイケる。秋田から杉森さんを召喚すべし


 以上に加え、「東京野球ブックフェア」常連の村瀬校長からも秘伝が享受されました。


・長々と話し込む客には、一人がおとりになって相手をすべし

・「長篠の戦い」での織田信長軍の鉄砲隊に倣い、売り子を一列三名で三列配備。三段構えで客に対し絶え間なくコミュニケーション波状攻撃をかけるべし


 ということで、雑誌作りに東京ブックフェアのレア情報など、他では聞けないとっても濃密な1時間半でした。大山さん、林さん、貴重なお話をどうもありがとうございました!